どれ程の時間、その場で蹲っていたのだろう。
不意にしたドアが開く音でハッと顔を上げた。
「カガリ……」
「お前、いつまでもそんなところに居たら風邪引くだろ……」
カガリは布団を小脇に抱え、その布団をラズに手渡すとまたドアの向こうに消えようとする。
慌ててドアに手をかけ、部屋の中へと滑り込み後ろ手にドアを閉じると鍵を掛けた。
「カガリ……」
中に入り込んできたラズを驚いたように眺め、カガリは溜息をつくと苦笑いを見せる。
そのままベッドへと向かい腰掛けると、少し口ごもってから呟いた。
「ラズ、ごめんな……」
「何を……謝るんだよ……」
手を後ろについて天井を見上げ、寂しげな笑顔を見せる。
「この時代のラズと一緒に歩んで行くって事は……あんな状況はこれからいくらでもあるって事だ……。レンにもカインにも言われた。慣れなくちゃいけないって事なんだよな……。ラズもカインに何か言われたんだろ? だからわざわざ晩餐が終わって直ぐにここに戻ってきたんだよな……」
「カガリ……」
側に寄りカガリの頬に手を寄せ口付けようと顔を寄せるが、それを避けるように顔を逸らした。
「ごめん、ラズ……」
「謝るなよ。どうして避ける?」
その言葉に困ったように首を横に振る。
「オレ、眠いんだ。だから……」
「いつも隣で寝てたろ」
「ラズ……」
「お前の辛さに気付いてやれなかったオレはもう触れることも出来ない?」
「違……」
「じゃあ、どうして避ける」
ベッドの上で後ずさるカガリに覆いかぶさるように乗り上げ、両腕を掴む。
困ったような表情で首を左右に振り、掴まれた両腕に力を入れ逃げようとするカガリを見つめた。
「カガリは何を恐れてる? オレには言えない?」
もう一度首を横に振り、横を向いたカガリの頬にかかった髪をかきあげる。
「じゃあ、言って欲しい」
手を離し、カガリの両頬を覆った。
「お前の気……」
「気?」
小さく頷いたカガリを不思議そうに見つめる。
「カインとお前、顔も同じで声も同じで……綺麗な青い眼で気まで似てるんだ……」
「うん……」
切なげな表情で微笑みを見せ、ラズの頬に手を触れさせた。
「オレに向ける感情は、怒りと嫉妬と……寂しいって……」
「寂しい……?」
「カインは寂しいんだ……。お前と同じ気で怒りと共に寂しいって感情までぶつけてくるんだ……」
頬に触れさせていた手を離し、吸い込まれてしまいそうなほどの青い瞳で見つめてくるラズの視線から目を逸らした。
「カガリ、カインはオレにはお前の辛さに気付いてやれって言っていたんだ……。このままじゃオレはカガリを傷つけるだけだって……」
驚いたようにラズと視線を合わせ見つめると、ラズは苦笑いを見せる。
「オレにもカガリにも、互いに必要で足りないところを教えてくれたって事なのかな……」
そう呟きカガリに口付ける。
「ン……」
唇を離し、額をくっつけるとカガリの深く赤い目を見つめた。
「カガリ、ごめんな……。オレ、気付いてやれなくて……。お前が出て行く前に気付くべきだった……。声をかけるべきだった……。カインが気付いていたのにオレが気付かなかったなんて、なんだか悔しいな……」
そう言いながらもカガリの首筋に唇を寄せる。
ピクンと反応を見せるが、この行為を拒否したいのかいつもであれば素直に声を出すのに今日は声を出さなかった。
「カガリ……嫌?」
「別に……嫌なわけじゃ……」
「じゃあ、どうして声を出さない?」
服をたくし上げ、胸の突起を指で弾く。
「んッ」
目を強く伏せ、カガリはやはり声を耐えていた。
「カガリ。嫌なら嫌だって言えよ。オレだって嫌だって言うものを無理にやろうとなんて思わない」
そのラズの声にハッとした様に目を開き、ラズの下から逃げるように這い出る。
ラズは思わず逃げるカガリの服を掴んでいた。
「カガリ!」
カガリは首を左右に振り、辛そうな表情を見せる。
怯えているようにも見えるその表情に、ラズは慌ててカガリを抱き寄せた。
「カガリ……どうした……?」
抱き寄せ、ふと気付く。
「そうか……ごめん。気だって言ってたよな……。怒りを含んだ気は、カインを思い出すのか……」
そう呟きカガリを覗き込んだ。
「カガリ……、オレはお前を混乱させてるのか?」
腕の中で小さく首を振る。
「どうしてカインを思い出すと怯えた表情になるんだ……」
言葉を発してからそれを考えた。
「お前は……、オレとの関係をカインに申し訳ないと思っているのか?」
思いついた言葉を次々発していく。
「オレをカインから奪ってしまったような気持ちでいるのか?」
ラズの服を掴むカガリの手に力が入るのを感じた。
「カガリ、オレは、お前にとって安心できる存在では無くなったのか?」
「も……良い……。もう良いから……」
力を入れて離れようとするカガリを更に強い力で引き寄せる。
「何が良いんだよ!? オレはこのままお前を抱けなくなるのは嫌だ!」
そう言うと抵抗するカガリの口を塞いだ。
「ンンッ」
ラズの胸を叩くカガリの両腕を掴むと左手で押さえつけ、そのままベッドに寝かせて右手で服をたくし上げる。
「ンッ!!」
足をばたつかせ、両腕に込められる限りの力を込めて離れようとするカガリを鬱陶しく思い、帯を外すとそれで腕を戒めた。
「!! ンンンッ!!」
首を振って唇を離そうとするカガリの頬を押さえ、更に深く口付ける。
乱暴だとは思ったが、カガリが温かくて安心できると言ってくれた自分の体温を思い出してもらいたい一心だった。
服をたくし上げ胸に触れる。
指をゆっくりと這わせ、突起を優しく円を描くように指の腹で撫で回した。
身体の線に沿うように更に指を這わせて、下半身にも触れる。
「ンンッ!」
ビクンと大きく身体を逸らせ、ラズの下で反応を見せた。
抵抗を止めたカガリを見て、ゆっくりと唇を離す。
荒い息遣いで頬を紅潮させ、顔を背けた。
「ごめんなカガリ。でも、オレとカインの気が似ているからって、オレの事まで拒否するな……。カインに遠慮して、オレの事まで拒まないでくれ……」
カガリのズボンを下げ、下半身に触れる。
足を持ち上げて自分の肩に乗せると、その下半身を口に含んだ。
「あッ! ラ……ズッ!!」
まさか口に含まれるなんて思っても居なかったであろうカガリは、ラズの予想以上に乱れる。
「やッ!! あッあぁッ!!」
肩に乗せた足に力を入れ身体を逸らし逃れようと必死に抵抗を見せるが、太股を押さえ口の奥までカガリの下半身を含み高みへと誘った。
「あッも……ッああぁッ!!」
ビクンと一際大きく身体を逸らすと、ラズの口の中に自身を放つ。
ハァハァと腹で息をしグッタリとした様子を見せていたが、カガリの腰に手を沿えると後ろの穴に舌を這わした。
「!? ラズッ!! あッ!!」
格好が苦しいのか掠れた切なげな声を上げたが、何度も何度も解すようにカガリの秘所を舌で攻め続けると、受け入れようとでも言うようにヒクつく。
そのままの格好で指を挿入した。
「ラズッ!!! ッやめ……ッ! もう嫌だッあッ! あッ!!」
持ち上げていた腰をベッドに下ろし、指を挿入したままカガリの横に身体をずらす。
そして切なげに声を上げるカガリを見つめた。
「カガリ……まだカインを感じるか?」
すんなりと二本の指を受け入れるようになったカガリの秘所を突き上げながら、耳元で囁く。
「カガリ……オレと、こうするのは嫌?」
「んぁッ……ッあ……ラズッ……」
縋るような声で名を呼ばれ、汗をかいた額にくっついた髪をかきあげその額に口付けた。
「カガリ……」
「あッ……あッ」
掠れた声を上げ、戒められた両腕をラズの首に回す。
「ラ……ズ……ッあッ」
回された腕は、受け入れると言う意味だと受け取り、ラズは秘所から指を抜くと自分のズボンを下げた。
自分の下半身に手をあてがい、ゆっくりとカガリの中へと挿入する。
「んあッ!! あッ!!」
回した腕に力を入れ、ラズに縋りついた。
「ラズッあッ! あッ!!」
腰を動かすたびに苦しそうに頭を摺り寄せ、切なげに声を上げるカガリの背に手を回し突き上げを強くした。
「ああッ! あッ!!」
「ッ」
きつくラズの下半身を締め付けてくるカガリに答えるように腰の動きの早さを上げ何度も何度も突き上げる。
「ああぁッ!」
カガリの声に艶を感じた。
この行為が嫌では無いと言う答えだろうか……。
「ッ……」
グッと突き上げ、ラズはカガリの中で果てた。
絡み合うような互いの荒い息が部屋に響く。
自分に回されたカガリの腕の中から出て、カガリの横に転がった。
「ラズ……腕……」
戒められた腕を転がったラズの目の前に差出す。
ラズはその腕に触れ、カガリをじっと見つめた。
「ラズ……」
困ったようにラズを見つめ、自分の腕へと視線を動かす。
ラズは身体を起こして汚れたカガリの身体を近くにあったタオルで拭くと、それで自分の身体も拭く。
ズボンを履き、窓の方へと寄るとカーテンを開き外を眺めた。
外は月明かりも無い暗闇で、遠くにシルバーレンの夜の街明かりが見えるだけだった。
窓に両手をつき大きく息をつくと、カーテンを閉じ窓辺から離れてベッドへと戻ってくる。
「まだ……カガリからの答えを聞いてない」
「え……?」
「言ってもらわないと解らないんだ……。カインの気を感じるオレと、こうするのは嫌になったのか……?」
身体を起こしたカガリの戒めたままの腕を掴む。
一度その腕を解いたが、そのまま腕を後ろに回すと今度は背後でその両腕を戒めた。
「ラズ……!」
「オレとカガリとがこうなる事を望まないカインを思い出すから、もう嫌になった?」
後ろ手に戒めたカガリの身体を優しくベッドに寝かす。
「それとも、カインに抱かれているような気分になるのか?」
「ラズ!!」
髪を撫で上げ、カガリに口付けた。
「お前は、オレがラズだって解っているのに……絶対にカインと間違えたりしないのに、似ているからって拒否するんだな……」
切なげな表情で目を伏せ、ラズは大きく溜息をつくとカガリから身体を離す。
上から下まで眺め、先ほどの行為のままで乱れたカガリの服を整えてやった。
カガリの身体を起こし、つい先ほど戒めたばかりの腕を解くとベッドから立ち上がった。
「この間はオレが側に居ない事が辛かったって言っていたのに、今は……側に居る方が辛いんだよな……」
そう呟きカガリの髪を撫でると部屋のドアへと向かう。
鍵を開きそのドアを開けた。
「自分が発する気なんてどうすることも出来ないよ……。側に居ればお前が欲しくなるし、でもそうするとお前は、そのオレにカインを感じて苦しまなくちゃいけないんだよな……」
溜息混じりに息をつく。
「ごめんな、無理矢理やって……」
振り向きもせずそう言ってラズは部屋を後にした。
「あ、ラズ!」
今までに感じた事の無いラズの切なげな感情に慌てたように後を追う。
ドアを開くと、先ほどカガリがラズに手渡した布団を小脇に抱え、長い廊下をホールへと向かっている背中が見えた。
「ラズ!!」
カガリの呼びかけは聞こえているはずなのに、いつもであれば微笑んで振り返ってくれるはずのラズはそのままホールの階段の上へと消えて行った。
その場で立ったまま暫く呆然としていたが、またホールにラズの姿が見え慌ててそこに向かう。
「ラズ!!」
「うん……ごめんな。オレ、お前の側に居たら多分また無理矢理にでも抱きたくなる……。王宮に戻るよ……」
視線も合わせようとしないラズの腕を掴んだ。
そして背後から抱きしめる。
ラズの目に、先ほどまで戒めていた腕が赤く擦れ少し腫れているのが見えた。
「ラズ、オレの方こそ……ごめん。気の事は気にしないようにするから、だから……」
「無理するなよ……。良いんだよ。望まれて身体を重ねるのと、無理矢理抱くのでは全然意味が変わってくる。王宮に戻ったらレンとコウガにここに来てやってくれって言っておくから」
擦れて腫れたカガリの腕を見つめ優しくそれを外す。
「ラズじゃなくちゃ嫌なんだよ! 他の人間じゃ代わりにならない!!」
叫びにも似た声で言ったカガリを見つめ、優しく微笑んだ。
「ありがとう。でも、気にしないように努めなくちゃオレの気にカインを感じるんだろ? 無理するな……」
離れていくラズの心を感じ取り、カガリは必死に懇願する。
「頼むから……ここに居てくれよ……」
「カガリ……」
「ラズの側が良いんだよ……。ラズと一緒に行こうって決めたから、嫌だった晩餐にも行こうって思ったんだ……。誰かの為に自分が我慢するなんて事、今までに一度もしたことが無いんだ……」
俯いて言うカガリの頭に優しく手を乗せた。
「でも、カガリ。オレと居れば嫌でもカインの事を思い出さなくちゃいけなくなる……。さっきオレに抱かれてて、心から声を出すことが出来たか?」
ハッとラズを見上げた。
そこには切なげな微笑みを見せるラズが居た。
「解るんだよ……。カガリが本当にあの行為を受け入れたいと思っているかどうかなんて、嫌なくらいに……。オレはカガリの事が好きだから尚更……。最初の夜とは全然心境が違うだろ? オレの中にカインを感じるのであれば、カガリは今後もあの行為で気持ち良いと思うことは無いよ。その度にオレは、カガリを拘束して、こうやって腕だとか心だとかに傷をつけて……抱かなくちゃいけないんだ……。抱くたびにオレ自身、カガリを傷つけた罪悪感に苛まれる……。カガリだって我慢しながらオレに答えようと努力しなくちゃいけない……。そんなんだったら抱かない方がよっぽど良い……」
カガリの頭に乗せた手をゆっくりと離し、もう一度微笑む。
「ありがとう。引き止めてもらえるなんて思ってなかったから嬉しかったよ」
「ラズ!」
「カガリ。努力したり我慢しなくちゃ得られない快楽なんて本物じゃない……。オレ達は本物じゃなかったって事だよ」
悲しげな瞳で見つめるカガリに微笑んで見せた。
「大丈夫だよ。前に言った約束は守るから。きちんとカガリの命は最期までオレが見ているから。いつか、オレにカインを感じなくなった時にまた受け入れてくれれば良いよ……」
ゆっくりとカガリから離れ、ラズは宮殿を後にした。
カガリはその場に立ち竦んで去って行くラズの背中を見つめることしか出来なかった……。
紫水 02.
XANADU